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仙台高等裁判所 平成3年(ラ)10号 決定 1991年3月27日

抗告人 甲野太郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告状」及び「執行抗告理由書」各写し記載のとおりである。

2  よって判断するに、一件記録によると、次の事実を認めることができる。

(1)  本件不動産競売開始決定は、別紙物件目録(1)の土地及び同(2)の建物(以下「本件土地建物」という。)を目的として、昭和六三年七月一八日になされたものであるが、同一不動産に対し、昭和六二年六月二六日不動産競売開始決定がなされており(青森地方裁判所昭和六二年(ケ)第二四九号)、この先行する競売手続において、評価人は、昭和六三年六月一六日、本件土地建物を一括する評価額を一八一九万二〇〇〇円とした。この評価額は、本件土地の一平方メートル当たりの更地価額を取引事例により五万三四〇〇円として、建付減価をせずに建付地価額を一〇四一万七〇〇〇円として、建物の再調達原価を二九〇八万二〇〇〇円としたうえ現価率を四六パーセントとして、建物価額を一三三七万八〇〇〇円とし、本件建物に第三者に対抗しえない賃借権及び使用借権が付着していることによる占有排除の減価及び競売市場性減価を二三パーセントとして算定した価額に本件建物についての敷金一三万円を控除したものである。

(2)  この先行する競売事件は、昭和六三年一一月一六日取り下げられ、本件不動産開始決定に基づく競売手続が続行されたが、原裁判所は、昭和六四年一月六日、本件土地建物の最低売却価額を前記敷金一三万円を控除しない一八三二万二〇〇〇円と決定した。その後平成元年六月二八日までの間に、三回期間入札を実施したが入札に応ずる者はなかった。このため、原裁判所は、平成元年一一月一〇日、入札又は競り売り以外の方法による特別売却の実施を執行官に命じたが、その実施期限の平成二年五月九日までに買い受けの申し出はなかった。そこで、原裁判所は、同月一五日、評価人に対し、既に提出済の評価書につき、前回評価時点以降の市場性の変動について補充して評価することを命じた。評価人は、前回評価後の社会情勢の変化及び青森地方の低迷する不動産市場の需給動向を考慮のうえ、同年一〇月二日の評価害で本件土地建物の一括評価額を一三七〇万六〇〇〇円とした。この評価額は、本件土地の一平方メートル当たりの更地価額を取引事例により五万三四〇〇円、更地価額を一〇四一万七〇〇〇円として、これに五パーセントの建付減価をなし建付地価額を九八九万六〇〇〇円とし、建物価額を前回と同一に評価したうえ、前回と比較し耐用年数が減少していることなどを考慮して現価率を四一・五パーセントとして一二〇六万九〇〇〇円とし、これに本件建物に第三者に対抗しえない賃借権及び使用借権が付着していることによる利用阻害減価を四パーセントとし、競売市場性減価を三五パーセントとして算定したものである。原裁判所は、この補充された評価額をそのまま最低売却価額と決定して、入札期間を平成三年一月二二日から同月二九日までと定めて期間入札を実施したところ、乙山春子が一四〇〇万円の価額で入札し、他に入札人がなかったので、同人を最高価買受申出人として原決定がなされた。

3  ところで、民事執行法七一条六号所定の「最低売却価額……の決定……に重大な誤りがあること。」とは、執行裁判所によって決定された最低売却価額が、その不動産の有する客観的な価額に比して著しく不当であることをいうと解すべきところ、上記認定したところによれば、青森地方の低迷する不動産需給の動向及び取引事例を考慮のうえ再評価がなされたものであるが、取引事例に基づき算定した更地価格の評価については特に不当な点はなく、本件建物の現価率を四一・五パーセントとしたことにも不当な点は認められない。前回の評価と異なり、五パーセントの建付地減価を行ったことも特に不当であるとは認められない。前回と大きく異なるのは、競売市場性減価率を三五パーセントとした点であるが、一般の取引と異なり競売は特殊技術的な性格を有しており、買主と売主の間に信頼関係を基礎とすべき事情もないことは否めず、最低売却価額を定めるについて競売市場性減価自体はこれを考慮するのが相当であると考えられる。そして、この減価率の決定は青森地方の低迷する不動産需給の動向をも配慮のうえなされたものであり、三回に及ぶ期間入札及びこれに続く特別売却の実施がなされたのに買受の申出をなす者は現れなかったこと、並びに入札者の数及び入札価額を考慮すると、相当な範囲にあると認められ、本件最低売却価額の決定につきその客観的な価額に比して著しく不当であると認めるに足る事情は認められない。

4  よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 飯田敏彦 菅原崇)

<以下省略>

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